京都地方裁判所 昭和62年(ワ)640号 判決 1991年1月31日
滋賀県草津市新浜町三五〇番地の六
原告
株式会社アパレル
右代表者代表取締役
小沢政治
右訴訟代理人弁護士
松本健男
右同
大川一夫
右同
永嶋里枝
右同
丹羽雅雄
京都市下京区東洞院七条下ル塩小路町五二二番地聖光堂ビル四〇一号
(旧住所 京都市中京区室町通三条上る役の行者町三七六番地)
被告
株式会社ユー
右代表者代表取締役
〓屋義弘
京都府城陽市寺田今橋二一番地の一五
(旧住所 滋賀県大津市木の岡町三七番一〇号)
被告
〓屋義弘
右被告ら訴訟代理人弁護士
谷口忠武
右同
下谷靖子
右同
豊田幸宏
右同
長沢美智子
主文
一 被告株式会社ユーは、同被告の販売、拡布する衣料用繊維製品及びその容器、包装紙、印刷物に、別紙商標目録記載の商標並びに別紙表示目録記載の表示を使用してはならない。
二 被告らは、原告に対し、各自、金五〇〇万円及び内金四〇〇万円に対する昭和六二年四月一〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告株式会社ユー(以下「被告ユー」という。)は、別紙商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)を付した衣料用繊維製品を販売、拡布してはならない。
2 被告ユーは、その販売、拡布する衣料用繊維製品、化粧品に、本件商標、または別紙表示目録記載の表示(以下「本件各表示」という。)を記載した容器、包装紙、印刷物を使用してはたらない。
3 被告らは、原告に対し、各自金四一二四万一九六〇円及び内金三九二四万一九六〇円に対する昭和六二年四月一〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 仮執行の宣言
二 被告ら
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五五年に設立された株式会社で、滋賀県草津市に営業所、倉庫を有し、衣料用繊維製品、化粧品等の販売を主たる営業としている。原告の業務内容は、原告自身の開発した規格(以下「アパレル規格」という。)により、多種目の婦人用下着やソフクスなどを継続的に取引関係にある数十社の商品製造メーカーに発注しておき、製品化され次第これらを入荷する一方、全国に約三〇〇店存在する販売代理店の注文に応じてこれらを販売し、右販売代理店は専属する多数の販売員によってこれらを訪問販売してゆくというシステムになっており、月商二億円ないし二億五〇〇〇万円の売上を計上してきた。
2 原告は、自己の商標である本件商標につき、昭和五八年三月二八日特許庁に対し、被服、布製身回品、寝具を指定商品として、商標の登録出願をなし、昭和六一年二月一八日出願公告がなされた。
また、原告は、その販売する衣料用繊維製品、化粧品並びにその容器、包装紙、カタログ等の印刷物に、本件商標、本件各表示を使用してきた。
本件商標及び本件各表示が、原告の販売、拡布する商品を示すものであることは、本件商標については昭和五八年三月の登録出願以来、本件各表示については昭和五五年の会社設立以来、衣料用繊維製品の販売業者、製造業者、販売代理店、消費者の間に周知である。
3 被告〓屋義弘(以下「被告〓屋」という。)は、原告の設立当初より経営者の一員として原告の経営に参画していたものであるが、昭和六一年七月に原告を退社した。被告ユーは、被告〓屋が昭和五三年一〇月に設立した化粧品等の販売会社であったが、営業をしない休眠会社であったものを、被告〓屋らが昭和六一年八月に再起させたものである。
被告〓屋、もと原告の仕入部次長中澤義和、同係員古田恵一郎らは、同年七月ころ相次いで原告を退職し、同年八月ころから被告ユーの職務行為として原告の業務の妨害活動に専心するに至った。
4 被告らの業務妨害活動
(1) 被告〓屋らは、昭和六一年七月ころから、原告が発注して製造業者に製造させたアパレル規格による製品を被告ユーに納入させ、原告と右業者との取引関係を終了させようと企て、原告に残留したまま密かに被告らに協力させていた原告の仕入担当の今井悟をして、一旦原告に納入されたアパレル規格製品を製造業者に返品させ、原告が仕入れるべきアパレル規格製品を故意に仕入れさせず、当時当然発注しておかなければならない同年秋冬物商品について意識的に発注を見合わさせるなどした。
(2) 被告〓屋らは、同年八月下旬ころから、原告の全国の販売代理店に対し、次々と文書を送付し、その中で「株式会社ユーとは、これまでの「アパレル」が「ユー」という会社名で再スタートした会社である。」とか、「アパレル商品規格開発七カ年計画のノウハウも会社一〇カ年計画のプヲンニングもそっくりそのまま「ユー」に移しました。」「従って、会社名、商品名等が「ユー」に変わっていくことを除いては、六年半かけて磨きぬかれた商品づくりの基本ラインも変わることはありません。」「オーダーナンバーは当面アパレルのオーダーシートのナンバーをご利用下さい。」などと記載し、被告ユーの商品出荷予定表にアパレル規格商品をそのまま掲載するなどして、あたかも原告が業務を停止して、被告ユーがこれを継承するかの如き態度を示し、販売代理店に対し大きな動揺を与えた。
(3) 被告〓屋らは、同年八、九月ころ、原告の取引先の製造業者や販売代理店に対する説明会を開き、その席上で、「原告はまもなくつぶれる。小沢社長は会社の商品を横領して実家へ送り、そのうちに会社を見限って横領した商品で別会社をつくろうとしている。」など、根も葉もない悪質なデマを流して原告及び原告代表者の信用を傷つけ、あわよくば原告を倒産に追い込むための様々な策謀をした。
(4) 被告ユーは、同年八、九月ころ、アパレル規格商品を一部の製造業者から仕入れ、本件商標を付したままこれを販売し、また、本件商標や本件各表示のある容器、包装紙に包装して販売し、あるいは本件商標や本件各表示の上に「株式会社ユー」という表示のラベルを貼って販売するなどして、原告の商品と混同を生じさせた。
(5) 右(1)の行為は民法七〇九条に規定する不法行為であり、右(2)(3)の行為は不正競争防止法一条一項六号に規定する営業誹謗行為であり、右(4)の行為は同法一条一項一号に規定する商品主体混同行為である。
5 損害
(1) 逸失利益
被告らの右妨害行為により、原告の昭和六一年九月一日から同年一二月末日までの衣料用繊維製品の売上高は六億三四八八万三一六一円にとどまり、前年同期の売上高一二億四七九一万四四一三円と比較して著しく減少し、原告は重大な損害を被った。仮に、被告らの妨害がなかったとすると少なくとも前年同期の売上高の八割の売上が見込まれ、その荒利益率を平均して三五・二パーセントとみると、原告には一億二七九三万円の損害が生じたことになる。なお、若干の不確定要因を念頭においてその七割を実損害とみると、本件における逸失利益の損害は八九五五万円である。
仮に、右一般的推計が許されないとしても、別表(2)記載の商品については、仕入れ担当者をして仕入れさせ左かったという被告らの直接的仕入れ妨害行為、もしくは原告が倒産する、原告が被告ユーに継承されるという被告らの虚偽事実流布等信用毀損行為によって原告の仕入れが妨害され売上が減少したものであり、その損害は同表のとおり合計四六八九万〇五六〇円である。
(2) 信用毀損による無形損害
訪問販売は、人から人へのクチコミによって商品の良さ(品質、使用感等)を伝えて、その人の信用によって販売されるシステムであり、販売員と顧客、代理店と販売員、本社と代理店の信頼関係が重要であるが、これらは結局、本社と販売員(代理店を含む)との信頼関係に集約される。本社は販売員に給料を支払っていないにもかかわらず、販売員は本社を一種の人格として信頼している。訪問販売業では、商品の流れを止められ、本社の信用が傷つけば、訪問販売ビジネスは致命的な損傷を受ける。
被告らは、原告の商品仕入れを妨害し、原告の有力代理店に虚偽事実を流布して原告の信用を大きく毀損した。原告の被った無形損害は極めて大きいが、その額は少なくとも一〇〇〇万円に達している。
(3) 弁護士費用の損害
原告は、被告らの妨害行為を阻止するために弁護士松本健男らに仮処分申請と本件訴訟提起を依頼し、弁護士費用の支払いを約した。その弁護士費用の一部分である二〇〇万円は被告らが賠償すべき原告の損害である。
6 請求
よって、原告は、不正競争防止法一条に基づき被告ユーに対し本件商標及び本件各表示の使用の差止を求め、同法一条ノ二及び民法七〇九条に基づき被告ら各自に対し、右逸失利益のうち三五〇〇万円、右無形損害のうち四二四万一九六〇円及びこれらに対する本件訴状送逹の日の翌日である昭和六二年四月一〇日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、並びに右弁護士費用二〇〇万円の支払いを求める。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は、「原告自身の開発した規格により」との部分を争い、その余の事実は認める。
2 同2の事実のうち、原告が本件商標につき昭和五八年三月二八日商標の登録出願をなし、昭和六一年二月一八日出願公告がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同3の前段の事実は認めるが、後段の事実は否認する。
4 同4(1)の事実は否認する。(2)のうち、被告〓屋らが、原告主張のような文書を作成して原告の販売代理店の一部に交付したことは認めるが、その余の事実は否認する。(3)のうち、被告〓屋らが原告の取引先の製造業者や販売代理店に対する説明会を開催したことは認めるが、その余の事実は否認する。(4)のうち、被告ユーが本件商標のついた商品を一部販売したこと、「アパレル」という表示のついた容器、包装袋等を、その表示の上に「株式会社ユー」のラベルを貼付して使用したことがあったことは認めるが、その余の事実は否認する。被告ユーは、本件商標のついた商品は昭和六一年九月中旬にその販売をとりやめ、「アパレル」という表示のついた容器も同年一〇月中旬にその使用をとりやめた。
5 同5(1)ないし(3)の事実は否認する。
第三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録の記載と同一であるので、これを引用する。
理由
一 争いのない事実
請求原因1の事実(但し、「原告自身の開発した規格により」との部分を除く)、同2のうち原告が本件商標につき昭和五八年三月二八日商標の登録出願をなし、昭和六一年二月一八日出願公告がなされた事実、同3の前段の事実、同4(2)のうち被告〓屋らが、原告主張のような文書を作成して原告の販売代理店の一部に交付した事実、同4(3)のうち被告〓屋らが原告の取引先の製造業者や販売代理店に対する説明会を開催した事実、同4(4)のうち被告ユーが本件商標のついた商品を一部販売し、「アパレル」という表示のついた容器、包装袋等を、その表示の上に「株式会社ユー」のラベルを貼付して使用した事実は、当事者間に争いがない。
二 本件商標、本件各表示の周知性について
成立に争いのない甲第一号証、同第二号証の一、二、同第四号証、同第二五号証、同第四三号証の一、二、証人佐藤明弘の証言によって成立の認められる甲第九ないし二一号証、被告〓屋本人尋問の結果によって成立の認められる甲第四七号証、被告〓屋本人尋問の結果によって被写体が原告の商品の包装と被告ユーの商品の包装と認められ、弁論の全趣旨によって昭和六一年一〇月八日山本貴子が撮影した写真であるものと認められる検甲第一ないし六号証、証人佐藤明弘の証言、原告代表者、被告〓屋各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告は婦人用下層を中心とした衣料用繊維製品について、社内で企画、検討して、デザイン、色、素材、サイズ、縫製加工方法、商品名、商品番号等を定めて、取引先の製造業者に発注して納品を受け、パンフレットや見本を販売代理店に交付して商品番号で注文を受け付けていたものであり、下層類という商品の性質上原告独特の形態の商品でもなければ、原告が独自に開発した他に例を見ない商品でもないものの、原告自身が定めた規格に基づく商品を取り扱っていたものと称して差し支えなく、原告は会社設立の昭和五五年以来、その販売、拡布する衣料用繊維製品(主として下層類)あるいはその包装、カタログ等印刷物に、原告の商品であることを示すため、本件各表示を付し、また昭和五八年ころからは本件商標もあわせて付しており、原告の業績は昭和五五年から昭和五九年ころまで順調に拡大し、昭和六〇年、六一年前半の売上は後退したものの訪問販売業界では売上高第三位であったものと認められ、アパレルという言葉自体は縫製加工の衣服を示す普通名詞であっても、他にアパレルという表示を用いた商品あるいは企業が衣料用繊維製品の製造、販売業界にあると認めるべき証拠はなく、さらに前示争いのない事実もあわせると、本件商標及び本件各表示は本件紛争の発生した昭和六一年八月当時には原告の販売、拡布する衣料用繊維製品を示す表示としてその訪問販売業界及びこれに関係する消費者に周知であったものと認められる。
三 被告〓屋らの活動
前掲甲第四三号証の一、二、検甲第一ないし六号証、成立に争いのない甲第五号証の一ないし四(但し、書込部分を除く)、同第六号証の一、二、同第三八号証、同第四三号証の三、四、同第四四号証の一、二、乙第三号証の一、二、同第四号証、同第七号証の一ないし四、弁論の全趣旨によって成立の認められる甲第七号証、同有四一、四二号証、原告代表者本人尋問の結果によって成立の認められる甲第三九号証、証人佐藤明弘の証言、原告代表者、被告〓屋各本人尋問の結果(但し、被告〓屋本人尋問の結果中後記信用できない部分を除く。)によると、次の事実が認められる。
1 被告〓屋は原告の常務取締役をして主に商品の企画、開発、営業を担当していたものであるが、昭和六〇年一一月ころ原告創業以来の社長大原逸男が脱税容 で審察を受け、後に新聞報道されたこと、昭和六一年六月ころ原告の経営不振から一〇名を超える従業員を解雇したこと、等から原告に見切りをつけ、原告を退社することを決意し、同年七月四日ころその意志を表明し、大原社長宛の退職願や部下に対する簡単な事務引き継ぎ文書を作成して提出し、以後出社しなくなった。
2 原告の企画仕入部次長中澤義和も、同年七月七日ころには原告を退職する申し出をなし、出社しなくなった。また、企画室長古田恵一郎は同年六月末ころ原告を退職していた。被告〓屋や石中澤、古田らは、原告に圧減中、原告の先行きを懸念して商品の製造業者への発注を控えていた。
3 原告の代表取締大原逸男は同年七月ころ一時所在を不明にしていたが、まもなく出社し、辞任を申し出し、同年七月一八日付で辞任し、同日小沢政治が代表取締役に就任し、七月二九日その登記が被告〓屋の取締役辞任登記とともになされた。
4 被告〓屋は、原告が倒産するものと判断し、従前から存した被告ユーを活用して衣料品の販売をすることを企て、同年七月末ころ、原告代表取締役小沢政治から原告に復帰するように動誘されたが、これに応じなかった。
5 被告〓屋は、同年八月下旬ころ、被告ユーの事業開始を原告の取引先の製造業者に説明して回った際、原告に倒産の危機があり、被告ユーと取引した方が賢明であると述べ、更に同年九月上旬には、原告の取引先の製造業者を集めた説明会の席上で、原告はまもなく倒産し、小沢社長は会社の商品をもって逃げる、などと説明し、原告のあとを受けて被告ユーが原告の定めた規格による商品の製造を発注するので被告ユーに協力するように求めた。
6 被告〓屋は、被告ユーの代表者として、同年九月一〇日ころから、原告の販売代理店のうち約六〇店を訪問して、被告ユーが原告を継承して下 類の訪問販売事業をなし、販売代理店に対しては原告に代わって被告ユーが商品を販売することになると説明し、前示争いのない請求原因4項(2)の文書を交付した。
7 被告ユーは、昭和六一年九、一〇月ころ、原告の取引先の製造業者から原告が定めた規格による下 類等の商品を仕入れて、これを本件商標や本件各表示のある容器、包装紙に包装して販売し、あるいは本件商標や本件各表示の上に小さく「株式会社ユー」という表示のラペルを貼って本件商標や本件各表示と「株式会社ユー」という表示があたかも同一出所を示すものであるかのように装って販売し、商品の出所の混同をもたらした。
8 原告は、被告ユーの右行為を知り、同年九月一一日被告ユーに到達した内容証明郵便で、抗議した。被告らは、一部非を認めて陳謝したが、本件商標や本件各表示を付した商品の販売、拡布は直ちには止めなかった。
9 被告らは、当時、化粧品を取り扱っておらず、化粧品については不正競争行為は見当たらない。
以上の事実が認のられる。被告〓屋本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。
四 前掲甲第七号証、証人佐藤明弘の証言によって成立の認められる甲第三二、三三号証、証人佐藤明弘の証言、原告代表者本人尋問の結果中には、原告の企画仕入部係員今井悟が原告に損害を与える目的で、上司に隠れて、昭和六一年七月ころ以前から原告が預かり保管中の商品「サニーメッシュカバー」と「ニューファミリーソックス」を取引先の株式会社サンエー美術に返還した旨の記載、共述があるが、弁論の全趣旨によって成立の認められる甲第二八号証、成立に争いのない甲第三四号証によれば、右商品は原告が昭和六一年二月二六日に右会社から預かったものを同年七月一五日に返還したものであり、代金を支払った仕入れ商品ではないことが認のられるのであり、また前示認定のとおり同年七月当時はいまだ被告ユーによる事業開始が企図されていないときであり、当時原告社内が、経営不振、従業員の大量解雇、依 退職、代表取締役及び常務取締役の辞任申し出等で混乱していたのであるから、右商品の返還が被告ユーの利益を図り原告の業務を防害するためになされたものとは認め離い。
また、被告〓屋らが在職中商品の発注を控えていたことは前示認定のとおりであるが、当時の混乱した社内事情からして、これが違法であるとはいえず、証人佐藤明弘の証言、原告代表者本人尋問の結果中の、被告〓屋らが、退職後に右今井悟をして、原告の規格商品を收意に仕入れさせず、同年七月当時当然発注しておかなければならない商品を意職的に発注させなかったとの部分は信用できない。請求原因4(1)の事実は認められない。
五 以上によると、被告〓屋及び被告ユーは、同年八月から一〇月にかけて、周知の原告の本件商標及び本件各表示を使用して被告ユーの商品を販売、拡布し、原告の商品と出所の混同を招き、また競争関係にある原告の信用を害する虚偽の事実を原告の取引先に流布して原告の営業上の利益を害したものと認められる。
六 そこで、原告の被った損害について検討するに、弁論の全趣旨によって成立の認められる甲第三〇号証によると、原告の昭和六一年九月一日から同年一二月末日までの売上が前年同期よりも著しく低減したものと認められるが、前記昭和六〇年以降の売上の減少傾向、原告の混乱した社内事情、等からすると、右期間の売上の減少が被告らの行為に起因するものとみるのは困難である。
また、原告は、少なくとも別表(2)の商品については被告らの仕入れ阻害及び虚偽事実流布行為により売上の減少が生じたと主張し、証人佐藤明弘の証言によって成立の認められる甲第二三号証及び同証言はこれに副うものであるが、前示のとおり被告〓屋らの在職中の発注の控えが違法とは害えず、退職後については被告らが仕入れを阻害したものと認め離く、かつ、原告の混乱状况からすると、被告らの虚偽事実流布行為がなければ販売代理店から原告主張の売上予想額に相当する注文が来る筈であったということもできないので、右各商品の売上減少の損害を認めることはできない。原告の逸失利益の主張は採用できない。
七 前示被告〓屋らの原告の製造業者及び販売代理店に対する虚偽の事実の流布によって、原告の信用が著しく害されたものと認められ、右は正常な競争の域を超えた不正な競争行為であるから、被告らは、これによって原告が被った無形損害を陪償すべきものであり、その は金銭に見積もって四〇〇万円と評価するのが相当である。
八 原告が弁護士松本健男らに本件訴訟を委任していることは明らかであり、成立に争いのない甲第八号証によると、原告は本件訴訟前に、同弁護士らに委任して被告ユーを被申請人として本件商標及び「アパレル」の表示の使用差止の仮処分を申請してその認容決定を得たことが認められる。本件事案の内容、認容額等からみて、原告が同弁護士らに支払う弁護士費用のうち一〇〇万円は被告らが陪償すべき原告の損害と認めるのが相当である。
九 以上の次第で、被告ユーはその販売、拡布する衣料用繊維製品及びその容器、包装紙、印刷物に本件商標及び本件各表示を使用することが許されず、被告らは原告に対し、各自損害陪償金計五〇〇万円及びうち無形損害の陪償金四〇〇万円に対する不正競争行為の後で訴状送達の日の翌日である昭和六二年四月一〇日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い義務があるので、原告の請求を右の限度で認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 露木靖郎 裁判官 井〓正明 裁判官 住友俊美)
商標目録
<省略>
表示目録
株式会社 アパレル
アパレル
Apparel
APPAREL
別表(2)
昭和61年9月~12月売り上げ減
<省略>